アルコールウインクアートが…はがれてきてる。
そのお悩み、じつは多くの作家さんが経験しています
アルコールインクアートのパネル作品がはがれる、このお悩みについて、以前Instagramでフォロワーさんにアンケートを行った際、70名ほどのインクアート作家さまからお声をいただくことができました。
今回は、はがれ問題のアンケート結果と、そこから見えてきた対策、そして私が行っている対策と現状についてご紹介します。
・アルコールインクアート初心者さん
・はがれにくい対策があるか知りたい
・はがれたアートの応急処置の仕方を知りたい
↓目次から好きなところへ飛べます
アルコールインクアートのパネルはがれの症状とは?
アルコールインクアートのパネル作品は経年でアート部分がはがれてきてしまうことがあります。
上記画像のようにパネルの縁の方からアートのはがれが進みます。
パネルの形には関係がなく、長方形でも円形でも六角形でも起こります。
このはがれについて、インクアート作家さんへ以下の三点のアンケートをさせていただきました。(ご協力いただいた皆様ありがとうございました!)
- はがれた経験の有無
- 経験のある方は、どのくらいの期間で剥がれてしまったか
- はがれた経験のない方はどんな方か(選択肢:アルコールインクやレジンの開始時期が半年以内、レジンをあまりかけない、パネルがラワン以外の素材、接着が両面粘着シート以外)
はがれた経験のない方への質問の選択肢は、私が自分の作品で実験して考察していたことについて、他の方も当てはまるのではないかと思いたずねたものです。
アンケートの結果、アルコールインクアートのパネル作品がはがれた経験のある作家さんが全体の66%、期間は1年以内にはがれてしまった方の割合が89%でした。
もちろん全ての作品がはがれるわけではないとは言え、1年以内にはがれたご経験のある方がこんなにたくさんいらっしゃるのは驚きでした。
はがれた経験のない作家さんへの質問の回答では、アルコールインクやレジンを開始して半年以内が16票、レジンをあまりかけないが11票、パネルがラワン材以外の素材が4票、接着が両面粘着シート以外が9票となりました。
アンケート結果から見えた4つの原因と対策
私の実験結果や、はがれた経験のなかったみなさんの特徴から浮かんだ、パネルはがれの原因と、はがれるまでの寿命をのばす対策を解説します。
原因①レジンの使用
レジンを使わない場合、はがれずに済む作品が多いです。
これはレジンが固まるときに収縮し、硬化後は劣化して反りやすくなる性質によるものだと思われます。
レジンコーティングする際は縮みの少ない良質なレジンを選びましょう。
硬化後のレジンの劣化スピードは、元のレジンの新鮮さ、耐久性、作品を飾る環境、制作のしかたなどで変わります。
耐久性の高い新鮮なレジンを使い、正確に制作し、作品はUVを避け、温度湿度の環境変化がなるべく少ない場所に飾りましょう。
原因②両面粘着シートの劣化
簡単にすぐ貼れて、WSではこれ一択ともいえる下記のような両面粘着シートは、芯材が紙製で湿度に弱い特徴があります。
木材は吸放湿するため、木製パネルと両面粘着シートの相性はどうやら△。
他の方法として、スプレーのりやジェルメディウムによる接着があります。
スプレーのりはスプレーをするためのスペースが必要となりますが、乾燥までの時間が比較的短く、両面テープの次に手軽な方法です。
▽それぞれの接着方法はこちらの記事
ただしこちらも少し注意が必要。
アルコールインクアートで使われる合成紙の主な成分であるPP(ポリプロピレン)は、難接着素材で本来は強接着タイプのスプレーの使用が向きます。
3Mのスプレーのりラインナップの中では99が望ましいところですが、99は噴射が帯状で凸凹が目立ってしまいアート紙の貼付けには向かないため、77で代用するしかありません。
私が77を使用して2年近く経過している作品では今のところはがれは見られないものの、若干不安は残ります。
もう一つの方法であるジェルメディウムを使った接着は、海外のアーティストさんの多くの方が取り入れています。
海外ではアルコールインクアートが日本より1,2年早くから普及していて、わずかですがインクアートの接着剤としての使用歴が長いこと、
また、大型作品をお作りになる方が多く、大きな作品でも耐えられるだけの接着力があると期待されます。
▽ジェルメディウムで貼り付ける様子
湿度など環境が日本と違うため、同じようにはいかない可能性もありますが、今のところ一番信頼できる接着方法なのではと考えています。
原因③パネルの素材
ラワン材のパネルははがれやすそうなことが分かりました。
木製パネルの素材には、ラワン材、シナ材、MDF等があります。
中でもラワン材は木目が荒く、アート用紙との接着面積が少なくなりがちなため、はがれやすいことが予想されます。
ラワン材の使用は避けるか、木目の隙間を埋められるジェルメディウム接着にするとよいと思います。
原因④貼りつけ方
両面粘着シートやスプレーのりの場合、アートを貼る前に接着面がどこかに一度くっついてしまったり、
貼付け時に場所がズレて一度はがしてやり直したりしたご経験はありませんか?
「あ!キレイに剥がせた、セーフ!」と思っても、これをやると接着力がとても弱まります。(もちろん私は経験者)
貼りつけは一回勝負です。ヘリや角まできっちり圧着させましょう。
その他の効果的なはがれ対策はある?
他のはがれ防止対策に、レジンを天面より数ミリ下の方までかけたり、側面までレジンで覆う方法があります。
ただ、私はこの方法をしていてもはがれてきてしまった作品があります。(冒頭の画像の作品も側面までレジンで覆ったもの)
やらないよりははがれ始めるまでの期間を延ばせる可能性はありますが、これだけで万全だとは言えなさそうです。
はがれてしまった作品の直し方は?
はがれてしまった作品にはボンドが使えます。
はがれている隙間にボンドを塗り、乾燥まで圧着すればひとまず再接着ができます。
使うボンドは2つの点に注意して選んでください。
1つめが木材や紙のほかにPPも接着可能なもの、2つめが黄変しにくいものです。
ボンドは経年でひどい黄変を起こすものも少なくありません。
使いかけのボンドに付いていた乾いたボンドが、黄色や茶色に変色しているのを見た経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
修復の時も、念のためなるべくはみ出さないようにするのがオススメです。
ただ、この再接着したアートも私の場合1年ほどで再びはがれてきてしまいました…。(冒頭の画像の作品です)
※アートは玄関を入ってすぐの壁面に飾っていたもの。
わが家の玄関は引き戸で、網戸にしていることも多いため、アートにとっては過酷な状況と言えます。
よく見ると、両面粘着シートとアートの間がはがれているところと、木製パネルと両面粘着シートの間がはがれている部分があるし、一度目にボンドが入りきらなかったところからはがれが進行してしまったようにも見えます。
選んだボンドの相性や、塗った量が足りなかったりした可能性もありますが、ボンド使用については応急処置だと考えるようにしています。
まとめ
アルコールインクアートのパネルはがれについて、みなさんへのアンケート結果と、そこから見えてきた原因や対策、私が行ったはがれの対処とその後について解説しました。
両面粘着シートによる接着は手軽でワークショップなどにかかせない一方で、販売作品などにするには少し心配な部分があると言えそうです。(重ねて書きますが、決して全ての作品が1年以内にはがれてしまうわけではないですよ)
説明書きに記載したり、はがれの対策をできるだけして、長く楽しんでいただける工夫をしていきたいですね。