IPAですっきりしたアルコールインクアートを描きたい
無水エタノールと同じ使い方でいいか…
ちょっとまって!IPAは有毒です。
ちゃんと対策しましょう!
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アルコールインクアートとIPA
アルコールインクアートにIPAを使うと、すっきりとしたラインが出しやすくなります。
特にアゲートラインと呼ばれる細かなラインを出すデザインで極細ラインを操るにはIPAが欠かせません。
無水エタノールより描き味がよく値段も安いIPAですが、実は毒性や引火性があり危険です。
匂いに耐えられるという方も、安全対策や健康対策を軽んじない方がよいと思うので、今回はIPAについて解説していきます。
IPAって何?
IPAは、別名イソプロパノールやイソプロピルアルコールとも呼ばれているアルコールの一種です。
身近なところではコンタクトレンズの洗浄液の一部や、車の燃料タンクの水抜き剤に使われていて、溶剤としての使用や工業的に使用されることが多いです。
アルコールインクアートにおいては、くっきりとした綺麗なラインを簡単に出せることで、一度使ったら手放せなくなる方も多いのではないでしょうか?
IPAの性質は?危険性は?
IPAは気化しやすい液体で、水にも油脂にも溶けます。
人の身体も水や脂でできているので、皮膚に付いたり気化したものを吸い込んだり目などの粘膜に触れたりすると身体に溶けこんで吸収されます。
身体に入ったIPAはアルコール分解酵素でアセトンなどに分解され排出されるので、身体にたまっていくことはないですが、
繰り返し長期的に接するにはリスクがあり、製造業の現場では作業者の方への特殊健康診断が義務づけられています。
気化したIPAは空気より重い性質があって、床付近にたまります。
乳幼児や、床付近にペットがいるご家庭でIPAを使うときは、同じ部屋でのアートは避けた方がよいですね。
また、IPAは空気と混ざると爆発性のガスができるほか、引火点(火を近づけた時燃えだす温度)は12℃です。
※ちなみにサラダ油の引火点は300℃。
常温でも火元があると簡単に火が付いてしまうということです。
IPAの身体への影響と分解時間
IPAは健康に様々な影響を与え、体内に入ると分解に時間がかかる特徴があります。
どんな影響があるかと、体に入ってから分解されるまでの時間について解説します。
IPAの身体への影響とインクアート作家様の症例
おおまかなイメージとして、お酒(アルコール)の強力なものと考えると分かりやすいです。
大量に飲み込んでしまうと急性中毒を起こし、最悪の場合は死亡、少量ずつでも体内分解速度を上回るペースで繰り返し摂取した場合は慢性中毒となり、長期療養やが必要となったり後遺症が残る場合があります。
より具体的な症状としては、分かりやすい所で目の粘膜・鼻・喉・気管支などの粘膜や肺の刺激があります。
そのまま使用すると鼻がツーンとしたり目がショボショボしたりしますよね。
ほかに、人によっては触ると皮膚炎を起こす場合があり、そうでない方も脱脂作用で手荒れしやすくなります。
そしてたくさん摂取してしまった場合の症状では、悪心、頭痛、もうろうとした状態、嗜眠、運動失調、深い昏睡(中枢神経障害)が報告されています。
実際のアルコールインクアート関連の症例では、対策なしでIPAを使って毎日数時間インクアートを行われていた方が、がんこな頭痛で医療機関を受診して、医師から中毒症状を指摘されたケースがありました。
(ご本人様から教えていただきました。情報のご提供ありがとうございました。)
ほかに懸念されることとして、動物試験(ラットやウサギとヒトでは代謝経路が大きく違うものではあります)の結果では、中枢神経系、呼吸器、肝臓、脾臓、腎臓などの臓器、生殖機能や胎児への影響が見られたということで、
IPAの安全データシートではそれらの項目に対して健康上の危険性が高いという区分になっています。
IPAの体内分解時間
身体に入ったIPAはエタノール(お酒のアルコール成分)の2倍の速さで体内に回ります。
お酒と同じ分解酵素で分解されるため、お酒(アルコール)に弱い自覚のある方は症状が出やすくなってしまいます。
どのくらいで分解されて抜けるかというと、IPAやアセトンの半減期(体内で半分の量になるまでの時間)はそれぞれ2.5~6.4時間と、22時間とされています。
これだけ経って半分です。
対策無しに気軽に毎日使えるものではなさそうだと言うことはお分かりいただけたでしょうか。
(以上参考:環境保護クライテリア、日本医薬品添加剤協会SafetyDateより)
IPAを安全に使うにはどうすればよい?おすすめの道具は?
IPAを安全に使うために下記の点に気を付けましょう。
- 換気を十分に行う
- 有機ガス用のガスマスクやゴーグルを使う
- 肌の露出を避ける
- ドライヤーが火元にならないよう事前にチェック
- 静電気に気をつける
- 保管場所に注意する
私が行っている対策をご紹介しながら、それぞれ詳しく解説します。
換気をする
なによりもまず換気を十分に行うことが大切です。
IPAを使っている間は常時換気します。
とくに床の方に溜まりやすいことを忘れないで下さい。
私は窓にこのタイプの換気扇を取り付けています。※これ一ヶ所だけでは空気全部は入れ替わらないけど無いよりマシな印象です。
保護具を着用する
換気が行えない環境では有機ガス用のガスマスクやゴーグルなどの保護具が必須です。
●吸収缶は真ん中に一つのタイプより左右に二つのタイプの方が作業の邪魔になりません。
●対応する吸気缶が二つ要ります。
●有機溶剤対応タイプのゴーグル
肌の露出を少なくする
皮膚からも吸収するので、なるべく肌を露出しないようにします。
特に汗をかきやすい夏場は汗や皮脂に溶け込みやすいので要注意です。
匂いが取れないと感じたら石鹸で洗いながしましょう。
火気に注意する
ドライヤーを使うときは、火元となってしまわないように、毎回プラグとコンセントの接触や、フィルターや内部にホコリなどの詰まりがないか十分にチェックするようにして下さい。
また、アルコールインクアートによく使われるフィルム素材の耐水紙では静電気を溜めやすいものもあるので、冬場は静電気除去(帯電防止)グッズを使用すると安心です。
●触ると静電気除去できるシート
保管場所に気をつける
IPA自体の保管や取扱いについて、容器が熱で破損しないように、温度変化が激しい場所や熱源の近くでの保管は避けます。
また使う時は、使う分だけ都度小分け容器などに移し、本体は内蓋をしっかり閉めて密栓して、余計な揮発を防ぎましょう。
私は初めて使う時戸惑ってしまったのですが、こちらの商品はノズル上部を好きなサイズにカットして使います。
カットした後、キャップは埃よけにしかならないので、内蓋は捨てずに必ず取っておいてください。
IPAの移し替えにはこちらのような容器がおすすめです。
ガラス製でアルコール耐性があり、口がせまくて揮発が多少抑えられると思いますし、残ってしまった時蓋を閉めれば密閉できます。
まとめ
IPAについてどんな危険があるのか有害性と引火性、安全に使うために必要なことやおすすめ品についてご紹介しました。
私は多くの作品にIPAを使用しています。
もともとアルコールに強くないこともあり、使用すると顔の保護されていない部分が紅潮しますし、服についた残り香などでも気持ち悪くなることがあります。
また、家に幼児もペットも居るため、使用時はできる限りの対策をしています。
まずは製造元が発行している安全データシート(SDS)や製品パッケージを隅々までチェックしてみましょう。
たくさん書きましたが、正しく取り扱えば決して恐ろしいものでは無いです。
しっかり対策して作品製作に役立てたいですね。