アルコールインクアートの仕上げにスプレーは必要?コーティングスプレーを調べた

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アルコールインクアートの仕上げについて

アルコールインクアートをしたら、仕上げにUV防止のためもUVバーニッシュをかけなければならないとお考えの方は多いのでは無いでしょうか?

私はコピックのメーカーである.Tooさまの見解や、自分の実験結果からUV防止系のスプレーは必要ないと考えています。

↓↓↓

コピックの退色・変色実験(UVカットスプレーの効果の結論)

ただし、作品のシーリングの面で普通のコーティングスプレーは場合によって使った方がよいと考えるようになりました。

今回はアルコールインクアートを溶かさず仕上がりの良いスプレーの実験や効果の高さの実験から、おすすめの商品をご紹介したいと思います。

おすすめのコーティングスプレー

結論を先に書いておきます。

アルコールインクアートを溶かさず、仕上がりと効果の高さから私がおすすめするのはホルベイン社のグロスバーニッシュスプレーです。

すでにお使いの方も多いでしょうか?

この結論に至った理由を解説していきますね。

アルコールインクアートにコーティングは必要?目的は?

そもそもアルコールインクアートにコーティングは必要なのでしょうか?

コーティングをするメリットは大きく3つあります。

小キズ・汚れ防止

アルコールインクアート作品の表面はとても繊細で、こすれたりするとキズがつきやすいです。

正しくコーティングすることで、インクが擦れにくくなり小キズを防げますし、ほこりなどからも守れます。

インクのはがれ防止

アルコールインクアートは使うインクや描き方によって、インクが取れやすくなってしまいます。

取れやすい代表的なインクは、ゴールドなどのメタリック系と、ホワイトやパステル(カメンスカヤのNシリーズ)で、これらはアート表面を触った時に指に乾いたインクが付いてくるような仕上がりになることがあります。

この理由は、コピックなどの染料系と違ってゴールドなどは顔料系インクで、粒子が大きく、アルコールで薄まると定着性が弱くなるためです。

またコピックなど染料系の方では、インクを濃い目にこってりと乗せると、湿気でベタつきが戻って、部分的に取れやすくなる場合があります。

↓こってり部分が湿気を吸うとベタついて取れてきやすい

薄い光沢紙(キャストコート紙)にアルコールインクアートをした様子

コーティングをするとインクをシーリングできて、はがれやベタつきを防ぐことができます。

レジンによる変色・色泣き防止

アルコールインクアートにはレジンを合わせることも多いですよね。

レジンもコーティングの一つの方法なので、レジンをかけると汚れ防止やインクはがれ防止になるのですが、今度はレジン自体による作品への影響が出てしまうことがあります。

本来なら紙に染みこんで発色しているはずのインクは、アルコールインクアートで使う耐水紙にはほとんど染みこまず、染料が紙の上に乗っているような状態になっています。

ここにそのままレジンをかけると、一部のインクが溶けだすことによる色泣き(色が流れたようになること)や、レジン硬化時の化学反応による変色が起こることがあります。

↓ブルー系インクの変色(青→水色に)

エポキシレジンによるアルコールインクの変色

その他の色の変色の様子

↓↓↓

●コピックの退色・変色実験

ピニャータインクのブラスの変色(青系インクと一緒に使ってレジンをかけるとシルバーに変色します。)

レジンをかけて変色したピニャータブラス

この変色や色泣きが、レジンの前にスプレーコーティングをしっかりしておくと防げます

コーティングスプレーもアルコールインクの色によっては変色させることがあるのですが、

実験をしてみたところレジンの影響が予想以上に大きかったので、レジンの前にスプレーでもコーティングをするべきと考えるようになりました。

コーティングスプレーとは?

ではコーティングスプレーとはどんなものなのでしょうか?

絵の表面にかけるスプレーにはフィキサチーフ、バーニッシュ(ニス)、トップコートなどの名前の物があり、少しずつ対象や仕上がりが違ったりしますが、それらのはたらきは概ね紙面への画材の定着や表面保護です。

ニス系では目指す仕上がりによってツヤ、ツヤ消し、半ツヤがあり、スプレータイプの他に筆やハケで塗るタイプの物もあります。

アート表面が繊細なアルコールインクアートにはスプレーが向き、もともとのツヤを活かすためにもツヤのある仕上がりになるタイプがおすすめです。

スプレーの主な成分は、合成樹脂(塗膜をつくるもの)と有機溶剤(合成樹脂を溶かしこんでいるもの)と噴射剤の高圧ガスです。

UV防止系スプレーは、ここにUV防止成分が入ったものになります。

実験①アルコールインクアートを溶かさず仕上がりがキレイなスプレーは?

アルコールインクアートを溶かさず仕上がりのツヤ感が綺麗なスプレーを探すために行った実験です。

アrコールインクアートに使えるコーティングスプレー

使用品と方法

上段左から

●カマーバーニッシュ グロス(クライロン)・・・合成紙に使えるバーニッシュ。油絵、アクリル画、水彩画対応。表面乾燥15分、完全乾燥2時間。

海外のアルコールインクアーティストさんの多くに支持されているスプレーです。

指標にするために入手しました。日本での正規販売はどうやら無く、正直なかなか手に入りません。

Amazonでも取扱いが無い場合や価格変動が激しかったりしますが安い時でも5,000円ほどします。

※私は海外通販で半額近くで取り寄せました。

●グロスバーニッシュ(ホルベイン)・・・耐水性、耐光性に優れた丈夫で変色のない塗膜をつくるスプレー。1,408円。

●UVグロスバーニッシュ(ホルベイン)・・・水彩画面やインクジェット出力紙の、紫外線による褪色を抑え、色の持ちを高めるスプレー。グロスタイプで色調が深まる。1,650円。

アルコールインクアートにかけるスプレーとしてお使いの方が多いかと思います。

ホルベイン画材(Holbein Art Materials)
¥1,650 (2022/06/07 00:42時点 | Amazon調べ)

下段左から

●デザインコート(ホルベイン)・・・水性絵具や鉛筆作品の定着と表面保護ができるスプレー。1,408円。

絵を描く方が一番最初に買うコーティング剤だと思います。(私だけ?)

ホルベイン画材(Holbein Art Materials)
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光沢GLOSS  プレミアムトップコート 水性(GSIクレオス)・・・従来の水性コート材よりも塗膜強度が向上し表面保護もできるスプレー。660円。

プラモデルなどホビー関連で人気の商品です。

GSI クレオス(GSI Creos)
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UV防止スプレー(谷口松雄堂)・・・インクジェットプリント・ポスター・写真・水彩画・和紙工芸品などの作品の紫外線による色あせを防ぐスプレー。耐久性、劣化防止、防水効果あり。1,650円。

谷口松雄堂
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●UV-レジスタント クリアスプレー グロス(クライロン)・・・紫外線によるダメージから作品表面を保護する。表面乾燥10分、完全乾燥5時間。

カマーバーニッシュと合わせて海外アーティストさんに支持されているスプレー。日本での取扱いはカマーバーニッシュと同様で、こちらの方が定価が高いです。

これらを説明書きに従ったやり方でアルコールインクアートに3度がけして乾かしました。

結果

上段3つがアルコールインクアートを溶かさなかったもので、下段4つでは溶けてしまいました。

スプレーで溶けたアルコールインクアート

4つの溶け方について、GSIクレオス社のトップコートは細かな霧状に溶けるだけでとどまったのに対して、他の3つはドロドロになってしまう印象でした。

クレオストップコートでアルコールインクアートが溶けた様子
アルコールインクアートがスプレーで溶けた様子

溶けなかった3つでは、どれだけ至近距離でスプレーしてもインクは全く動きませんでした。

どれも同じグロスタイプですが仕上がりのツヤや塗膜感には差があり、

カマーバーニッシュ>グロスバーニッシュ>UVグロスバーニッシュの順でしっかりした層ができ、つやつやに仕上がる印象でした。

↓3度がけした乾燥後

グロス系スプレーの仕上がりのツヤ感の違い

写真で違いが全然捕らえられない…!!実物は結構差があります。

カマーバーニッシュは一度の噴射でかかる量も多く、ホルベイン社の方が繊細な薄付きになります。

UVグロスバーニッシュは他の二つと比べるとツヤはあるもののどこか曇ったような仕上がりでした。

※↓他にも試したスプレー達。ラッカーは一瞬でドロドロ。右のパステルフィキサチフのみアルコールインクアートを溶かしません。仕上がりはツヤなしです。

他のスプレー

考察

アルコールインクアートを溶かすスプレーについて、私なりに分かった範囲でご説明します。※化学の話になるので興味のない方はごっそり読み飛ばしていただいて全く問題ないです笑

スプレーの主な成分は前述したように合成樹脂(塗膜をつくるもの)と有機溶剤(合成樹脂を溶かしこんでいるもの)と噴射剤の高圧ガスですが、この内の有機溶剤の種類によってアルコールインクが溶けるかどうかが決まります。

有機溶剤にはいくつかの種類や分類の仕方があって、絵のコーティングスプレーでは大きくアルコール系と、石油系と呼ばれているものがあります。

名前からも察せる通り、まず、アルコール系のタイプはアルコールインクを溶かします。

スプレー缶の表記を隅々まで見ていただくと、成分や危険物などの表示の辺りに「アルコール類」や「エチルアルコール」(エタノール・アルコールの別名です)といった記載があるのがこのタイプです。

それでは石油系のタイプなら全て大丈夫なのかというと今回の結果はそうでもなくて、構造式にベンゼン環を持つ芳香族炭化水素(化合物名だとベンゼン、トルエン、キシレンなど)はアルコールインクアートを溶かしてしまうようです。

実際、カマーバーニッシュには脂肪族炭化水素(ベンゼン環がないもの)のみが危険物として記載されていて(噴射剤のLPGガスについてを言っているのかな?)芳香族の方は入っていないようでした。

水性のGSIクレオスで溶けてしまったのはなぜなのかよく分かりません。

噴射剤のジメチルエーテルならグロスバーニッシュにも含まれているし…

これだけ第2石油類だったので、水溶性のカルボキシ基がNGということなのかなぁ。

(高校化学と溶剤についてが得意な方フォローお願いします笑)

まとめ①

アルコールインクアートに使えるスプレーはクライロン社のカマーバーニッシュと、ホルベイン社のグロスバーニッシュ、同社のUVグロスバーニッシュでした。

仕上がりの美しさと日本での手に入れやすさや価格から、ホルベイン社のグロスバーニッシュを選ぶのが良いと思います。

海外の多くのアーティストさんがアルコールアートの仕上げとして推奨している方法は、カマーバーニッシュを何度も(6回とか)重ねた後に乾かし、さらにUVレジスタントクリアスプレーを何度か(こちらも6回とか)重ねがけする方法ですが、私がカマーバーニッシュを3度掛けた後UVレジスタントスプレーをした際にはアートが溶けてしまいました。

より強い塗膜を作るには4回以上の方が良いかもしれません。

実験②コーティング(塗膜)力のあるスプレーは?

レジンをかける前にコーティングスプレーをすることで、アルコールインクアートをシーリング(封じ込め)したり、レジン硬化の化学反応による変色がちゃんと防げるかどうかを調べました。

使用品と方法

レジンで変色が起きやすい緑(G17)と青(B37)を使用したアルコールインクアートに、アートを溶かさない3つのスプレーをそれぞれ3度がけ(スプレー二三往復を一旦乾かす×3回)した後、アートレジン社のエポキシレジンをかけました。

上にあるものは比較対象でスプレーなしです。

結果

コーティングスプレーのレジンによるアルコールインクアートの変色予防

スプレーしなかったアートはレジンによって緑の黄色みが抜けて青に、青は赤みが抜けて水色になりました。

スプレーした3つはいずれもだいぶ変色を防げていますが、特にグロスバーニッシュとカマーバーニッシュが優秀でした。※実物だと写真より違いが分かりやすいです

まとめ②

アルコールインクアートをシーリング(封じ込め)したり、レジンの化学反応による変色を防ぐ物理的な力が強いのはグロスバーニッシュとカマーバーニッシュでした。

見た目の塗膜感(つや感)が結果にそのまま表れたように思います。

グロスバーニッシュ3回でもまだ多少の変色があったので、もっと完璧にシーリングするならやはり4回以上かけるのが有効かもしれません。

UVグロスバーニッシュはUV防止成分のためか、他の二つと比べて若干くもるようなマットなような仕上がりになる印象でした。

たくさん重ねると透明性の面で印象に影響する恐れがあるかもしれないと思います。さらなる重ねがけをお考えの方は慎重になさってみて下さい。

※UV防止効果については2度がけ以上でも効果はあまり変わらないと谷口松雄堂さまの商品についてはこちらのQ8で言及されています。

他のUV防止系スプレーでも同様と予想されます。

スプレーの乾燥について、重ねてかけていると特に、表面を触って大丈夫でも内部まで完全乾燥するのには時間がかかります。

レジンをかける時は、完全乾燥(臭いが完全に消えます)するまでしっかり時間を空けるようご注意下さい。

おまけ

グロスバーニッシュの3度がけでブラスの変色もだいぶ防げます。

レジンをかけても変色していないブラス

最後に

アルコールインクアートの仕上げに向くスプレーとやり方をいくつかの実験結果を交えてご紹介しました。

スプレーの上掛け回数については取れやすいインクをシーリングする程度なら1・2回、メタリックインクを湿度や経年でさびないようにシーリングしたり、レジンによる変色から守るためのコーティングなら4回以上など、目的に応じて変えればよいかと思います。

ただ正直なところ、アルコールインクアート本来のインクの質感も美しいので、レジンをしない作品にも良さがあるし、スプレーで封じ込めてしまうのはもったいない気もします。

目的と必要性を理解していれば、使う使わないも含めて臨機応変に使い方を選んでいけると思います。

ご自身が目指す完成品に合わせて、スプレーの使用方法を検討してみて下さいね。

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